親父が運転免許を返納した。


世の中、逆走やアクセルブレーキの踏み間違いが溢れている。
先日も一方通行を逆走してくる白髪の老人が運転する軽トラとぶつかりそうになった。
あり得ない場所でだ。 あり得ない。


家族として親父を説得してはいたのだが、やはり当然のごとく渋る。
私も親父の気持ちは少しわかる。
歳を取るごとに少しずつ失うものが増えてくる。
免許までもか?

男として車の免許は最後の誇るべき資格だ。田舎ならば毎日行使する資格だ。
これを返納するということは自分の大事なアイデンティティを無くすことになる。

好きな車を運転するという楽しみは何物にも代えがたい。

大した事故などやっていない奇麗な経歴、それを返すのか?


私たち家族は危ないからという理由で、親父の残っている最後の大事な羽をもぎ取るのか!




最初に話し合ってから何か月たったことだろう。

「免許返納したらどうなるのかな」

その間、3回ぐらい親父は俺にそう質問してきた。
俺はその都度同じ返答をした。



そして、予告することもなく突然、親父は免許を返納した。
その代償は電車のチケット5,000円分だ。たったそれだけだ。出雲市、少し他を見習えよ。




「(今まで)お疲れ様」
そうとしか言葉が出なかった。


私の免許歴はまだ親父の半分。30年だ。
私が翼をたたむのは、いつなのだろうか。

同じようにこの田舎の生活で、たたむ決断が出来るのだろうか。